ポーズをとる女性

こんにちはパーソナルトレーナーの渡辺開人です。

筋力というものは、同じ時間発揮するとしても姿勢が適切でなければ、その筋肉が発揮できる最大限の力を引き出すことができません。また、どんな筋肉でも最大筋力を発揮するために1番適した「長さ」を持っていて、その適した長さから離れれば離れるほど筋力は減少してしまいます。その適した長さに関わってくるのが「関節角度」です。

それぞれの筋肉が持つポテンシャルを最大限に発揮できる姿勢とはどのようなものなのか、「関節角度」は筋肉が発揮する力にどのように関わってくるのでしょうか。

今回はそんな姿勢による筋力の変化について詳しくご紹介していきましょう。

筋力と姿勢はどんな関係なの?

先程述べたように、筋力と姿勢には大きな関わりが存在します。ここでは、筋肉の持つ性質について掘り下げて考えていきましょう。

初めに静的特性、つまり等尺性収縮をしている状態の筋肉の特性から始めましょう。

 

等尺性伸縮

まずは等尺性伸縮について説明しておかなければならないことがあります。

実際の人間の運動や動きの中には、厳密な等尺性収縮というものは存在しません。

というのも、筋肉の両端は腱に繋がっており、この腱はヒモのような構造になっていて基本的には伸びないのですが、それでも少しだけ伸びるようにできています

ハンカチをイメージしてみると分かりやすいかもしれません。

ハンカチの繊維も伸縮しませんが、縦横に織ってあるため、斜めに引っ張れば少しは伸びますよね。実は腱を構成しているコラーゲンも、ハンカチと同じような構造になっているのです。

ということで、スポーツのパフォーマンスや運動中に発揮されるスピードやパワーを考えた場合、腱の影響というのは無視できないのです。最近では筋収縮を考えるときに「筋腱複合体」という言葉が使用されるようになり、筋肉と腱をまとめて特性を考えようという傾向も強くなっています。

 

筋力の測定

次に、筋力を測定する際の話になりますが、等尺性収縮をさせて、筋肉の力を測るという方法自体は昔から伝統的に行われてきました。例えば、握力計や背筋力計がそうです。

これは何kgという数値がはっきりと出るため、非常にわかりやすいものです。学校でもよく使用されている計測器ですから、誰でも一度はこれらの機械を使って握力や背筋力を測定した経験があるでしょう。

しかし残念なことに、多くの人の膨大な量のデータが存在するにもかかわらず、必ずしも十分には活用されていないのです。

これは、正しくいえば有効活用しにくいという現状があるのです。なぜなら、測定時の条件を統一させていないため、測定した筋力が変動してしまうからです。

正確な数値を出すために、特に厳密に統一させなければいけないのは測るときの「姿勢」です。

自由な姿勢で背筋力を測ってしまうと、本来測りたい背筋以外の腕やふくらはぎの筋力を使ってしまったり、膝の伸展を使用してしまったりする可能性があります。

これでは本当に背筋を使っているのかどうかすら、よく分かりません。

どこの筋力をどう測っているかということは、計測の現場ではそこまで重視されていないと思います。

筋力を測定するという目的を本当に達成するためには、計測する際の「姿勢」には厳格に注意を払わなければいけないのです。

実際、腰の角度に応じて背筋力が変わっていくかを調べたデータ上でも、かなり大きく変化しているのがわかっています。

背筋力の測定とは力の方向が異なりますが、この結果だけでも背筋力を測ることがいかに難しいことなのかが示されているといえるでしょう。さらに、背筋力を測定する動作は複合関節動作であるため、余計に問題が複雑になってきます。

そのため、腰椎の角度を厳密に30度に設定する、膝をしっかりと伸ばすなど、測定する際の基準を統一すればデータの質も良くなってくると思いますが、現在の測定器ではそれは難しいと思います。

 

正しい姿勢で筋力がアップする仕組み

さて、ここからが本題です。姿勢によって発揮される筋力が変化するとは一体どういうことなのでしょうか。

筋肉には、それぞれの部位で関節の角度によって発揮できる筋力に差が出るという性質が存在します。スポーツを行う際には全身の筋肉を使った筋力発揮が求められます。

当然のことながら、複数の関節を動かすことになります。それぞれの関節には、最大の力を発揮するための理想的な角度が存在し、それぞれの関節回転力の合算が大きな力として発揮されるわけです。

「各関節を最適なポジションでフルに機能させる」ということを全身で考えると、「姿勢」が非常に大切なポイントになってきます。力を発揮するための姿勢が適切であればこそ、それぞれの筋肉がポテンシャルを最大限に発揮することが可能になるのです。

これはトレーニングやスポーツの現場だけに限らず、日常の動作でも同じことが言えます。

例えば、物を押すという行動ひとつとってみても、足の開き具合や、膝の曲げ方、腰の角度、腕や肩の使い方などのいくつもの要素が一体となった上で最終的に発揮できる力が決定しています。その最適な姿勢の形に唯一の解答があるとは断言できませんが、限りなくベストに近い形は存在するでしょう。そして、その形に、近づけば近づくほど、その人は力を発揮するのが上手いということになります。

物を押すという一般的な姿勢の場合は、今までの経験や、試行錯誤に基づいた結果なので、おそらく大きく間違っていることはないと思います。

そして、長い人類史の中でその姿勢が形作られた背景には、「静的な筋力発揮能力は関節角度に依存している」という基本的なメカニズムが存在するのです。

これが筋力と姿勢が関係しているという理由となるわけです。

 

筋力はどうして関節角度で変わるの?

姿勢と筋力がどのように関係しているのかは前項で分かったと思います。ではなぜ関節角度で筋力は変わるのか。次はその部分について説明していきましょう。

たとえば、ひじに怪我を負って関節を動かせなくなってしまった人がいたとします。

そこで人工関節を作ってひじを動かそうとした場合、最も簡単な方法としてはひじにモーターを埋め込んで関節を回す方法が考えられます。

しかし、モーターというのは常に一定の速度と力で動くのが基本ですから、腕が発揮す筋力は関節角度には依存しません。どんなポジションでも出ている力は一定になります。

ですが、これはあくまでも機械の話であり、人体はそういう仕組みにはなっていなく、筋肉には単純なモーターとは大きく異なる特性が存在するのです。

そのメカニズムとして最初に考えられるのが、筋線維の1本1本がそういう仕組みになっているのではないかということです。

筋肉というのは、筋線維の束で出来ているため、筋線維の特性は筋肉全体の特性ともいえるわけです。

では、関節角度が変わることで筋線維の何が変わるのでしょうか。それは筋線維の長さです。

ひじの屈筋運動でいえば、ひじを曲げれば曲げるほど上腕を平行に走っている筋肉は短くなり、ひじを伸ばせば長くなります。

となると、筋線維はその長さが変わった際に、発揮できる等尺性最大張力が変わるのではないかという推論が成り立ちます。

実際の実験結果によると、人の場合は、筋線維1本の筋節の長さが2.5~2.7マイクロメーター程になったところで、最大の張力が発揮されます。それより長くなったり短くなったりすると、張力が落ちてしまいます。

最大の張力を発揮するために1番適した筋節の長さのことを「至適筋節長」といいます。筋節長は、筋線維の長さに比例しているため、筋線維が力を出すのに最適な長さであるということになります。

では、至適筋節長というものがなぜ生まれてくるのでしょうか?

筋収縮というのは、筋線維の中の「細いフィラメント」と「太いフィラメント」という2種類のミクロサイズの繊維状の構造が滑り合うことによって起こります。

この2種類のフィラメントがお互いに滑り合い、筋節な中央方向に向かって力が発生することで収縮が起こり、これを「滑り説」といいます。

2種類のフィラメントの重なり合いが最も長くなっていれば、大きな力が出ますし、重なり合いが短ければそれに比例して発揮される力は小さくなっていきます

これは筋肉という構造が持っている宿命のようなもので、どんな筋肉でも、最大筋力を発揮するために1番適した長さを持っています。そして、その適した長さから離れるほど筋力は減少してしまうという結果になるわけです。

そのため、関節角度が最適な角度にあるときは筋線維が最適な長さにありますが、その最適な角度からズレてしまうと、筋肉は最大限のポテンシャルを引き出すことができなくなってしまうのです。これが、関節角度の変化によって筋力が変化する理由になるのです。

 

まとめ

今回は姿勢と発揮される筋力の関係についてご紹介しました。スポーツをする際だけではなく日常生活を送る上でも、さまざまな場面で筋力は使われていますよね。

スポーツを行っている人も、仕事や家事で重いものを運んだりする人も、現在のご自身の「姿勢」を見直してみてはいかがでしょうか。もしかすると普段と同じ行動をしていてもより多くの力を発揮することができるかもしれません。逆に言うと、もっと少ない力で同じ行動ができるかもしれません。つまりは疲れにくくなるということです。

このように、いつも同じ視点で「これが絶対だ!」と思わずに、少し原点に戻り筋力を効率よく発揮できるようにしていきましょう。

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