筋肉にも優性遺伝が関与?遺伝的メカニズムを解説
「優性遺伝」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。これは、遺伝学の考えの一つです。
漢字だけで見ると優れた能力などが遺伝することと捉えてしまいがちですが、正しくは遺伝で現れやすい形質のことをいいます。例えば、二重まぶたは優性遺伝、一重まぶたは劣性遺伝なので、親が二重まぶたと一重まぶただったら生まれてくる子どもは二重まぶたになる可能性が高いのです。
こういった特徴が筋肉にも表れるのかについてみていきましょう。
筋肉自体に優性遺伝はあるの?
基本的に身体のすべての特性は遺伝する傾向があるため、筋肉の形成には遺伝子が関係しています。筋肉に優性遺伝があるのなら、トレーニング前にこういった知識も身に付けておきたいですよね。
しかし、筋肉の優性遺伝についてはまだまだわかっていない部分が多く、研究段階です。
例えば遺伝性筋疾患の「筋ジストロフィー」という病気では優性・劣性問わずに発症して筋肉に影響することもあり、遺伝だけでなく色々な因子が関与するといえるでしょう。
遺伝子のうち、片方の親が筋肉の発達に関わる遺伝子に変異があったとしても、必ずしもその作用が強く出るともいえません。例えば、先述した筋ジストロフィーについても遺伝の影響を受ける場合もあれば、本人の遺伝子が突然変異した事によって新たに生じるようなケースもあります。
筋肉の優性遺伝や劣性遺伝について調べている方の中には、親がアスリートだけど自分の筋肉もその才能を受け継いでいる?とか、反対に親は全く運動していないけれど自分はトップアスリートになれる?といった疑問を抱えている方もいるでしょう。
例えば、以前ご紹介したスーパーベビー。ともにトップアスリートだった両親から生まれた赤ちゃんが、突然変異によって筋肉の成長に歯止めがきかない状態となり、並外れた筋肉の持ち主となりました。
これはトップアスリートだった両親の遺伝が何かしら関わっている可能性もゼロではありませんが、100%遺伝による影響を受けたとはまだ証明できない段階なのです。
参考: 難病医学研究財団/難病情報センター:筋ジストロフィー(指定難病113)
筋線維には優性遺伝はある?
続いて筋繊維に関する優性遺伝についてです。例えば、お父さんが速筋繊維型の特性があり、お母さんが遅筋繊維型の特性を持っていた場合、子どもにどのような遺伝の影響があるのか気になるところですよね。
こちらについてもまだまだ研究段階ではありますが、筋線維の組成は遺伝的な影響を受ける可能性が高いと考えられています。
例えば、ラットを用いて筋線維組成の親から子への遺伝性を調べた実験があるのでご紹介しましょう。この実験の中では、腓腹筋外側頭深層部の速筋線維構成比が高いラットを用いた選択交配を行い、速筋線維の比率が高いラットが生まれるかどうかを調べました。
実験の結果、実際に腓腹筋外側頭深層部の速筋線維構成比が高いラットが生まれたのです。
研究の中で、筋線維組成だけでなく、その他の筋にも遺伝の影響が見られました。
参考: つくばリポジトリ:筋線維組成の遺伝性についての検討 A2191.pdf
それから、双生児を用いて遺伝の影響を調べた研究もあります。こちらの研究では一卵性双生児と二卵性双生児の外側広筋で遅筋繊維の遺伝を調べたところ、男性で99.5%、女性で92.9%、男女で見てみると96.7%の遺伝率であることがわかりました。
この研究の中では筋繊維組成はほぼ遺伝によって決定されているとの結果になっています。その一方で一卵性双生児と兄弟姉妹の外側広筋の筋繊維組成を比較したところ、遺伝性ではなく後天的要因が30%ほど存在するのではないかとの結論に至りました。
研究によって報告が異なるケースもあるため100%筋繊維が遺伝の影響も受けているのかに対してはまだはっきり言いきれない部分がありますが、親の筋繊維組成のばらつきが子どもの筋繊維組成のばらつきに対して影響をもたらすという報告もされています。
いずれにしても遺伝が影響している可能性は高いといえるでしょう。
参考: つくばリポジトリ:筋線維組成の遺伝性についての検討 1.pdf
筋力発揮に優性の遺伝子が関与
スポーツパフォーマンスに関する遺伝子多型が遺伝するかどうかを調べた研究があります。
注目されたのは「αアクチニン3タンパク質」というもの。これは骨格筋のZ膜という部分に位置しているものであり、筋力を発揮する際に密接な関係を担っています。
野生のマウスを調べたところ、αアクチニン3タンパク質を発現しているマウスは、そうでないマウスに比べて高い筋力も確認されているのです。
研究の中ではαアクチニン3タンパク質発現量が遺伝子型でどのようなるのかについて調べました。その結果、RX型に比べるとRR型のほうがαアクチニン3タンパク質の発現量が多いとの結果になっています。
ただ、だからといってRR型の方がRX型よりも優れた運動パフォーマンスを発揮したのかというとそうではなく、研究の中で行われた膝伸展動作による筋力発揮特性への影響はみられていません。
それから、もう一つの遺伝子型であるXX型についてはαアクチニン3タンパク質自体が観測されなかったとのこと。しかし、αアクチニン2タンパク質というものに関してはXX型、RX型、RR型の順で高くなっており、αアクチニン2タンパク質がαアクチニン3タンパク質を補償しているのではないかと考えられています。
こういったαアクチニンタンパク質の発現量の違いは遺伝子によって変わってくるため、筋力発揮に優性の遺伝子が関与しているといえるでしょう。
参考:(PDF)デサントスポーツ科学Vol.35:aアクチニン3タンパク質発現量がヒト骨格筋パフォーマンスに及ぼす影響[PDF]
なお、こちらの研究ではαアクチニンタンパク質は有力な候補遺伝子の一つではあるものの、一般人のスポーツパフォーマンスなどに関してはそれほど大きな影響を与えない可能性があるとされています。
遺伝によってタンパク質の発現量は変わりますが、競技者のパフォーマンス決定には後天的な環境的要因が大きな影響を与えると考えられているので、あまり遺伝の影響については考えずに日々のトレーニングを行っていきたいですね。
まとめ
いかがだったでしょうか。筋肉に対する遺伝について解説しました。優性遺伝というものがあることを知り、気になっていた方は参考にしてみてください。
親から遺伝するものはたくさんありますが、筋組織もその1つです。日々のトレーニングを行うにあたり特に気にする必要はありませんが、豆知識の1つとしておさえておいてはいかがでしょうか。
http://bodyke-live.com/tips/human-body/muscle-dominant-inheritance/http://bodyke-live.com/wp-content/uploads/2017/08/youDSC_0057_TP_V-1-1024x640.jpghttp://bodyke-live.com/wp-content/uploads/2017/08/youDSC_0057_TP_V-1-150x150.jpg体の仕組み「優性遺伝」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。これは、遺伝学の考えの一つです。漢字だけで見ると優れた能力などが遺伝することと捉えてしまいがちですが、正しくは遺伝で現れやすい形質のことをいいます。例えば、二重まぶたは優性遺伝、一重まぶたは劣性遺伝なので、親が二重まぶたと一重まぶただったら生まれてくる子どもは二重まぶたになる可能性が高いのです。こういった特徴が筋肉にも表れるのかについてみていきましょう。筋肉自体に優性遺伝はあるの?基本的に身体のすべての特性は遺伝する傾向があるため、筋肉の形成には遺伝子が関係しています。筋肉に優性遺伝があるのなら、トレーニング前にこういった知識も身に付けておきたいですよね。しかし、筋肉の優性遺伝についてはまだまだわかっていない部分が多く、研究段階です。 例えば遺伝性筋疾患の「筋ジストロフィー」という病気では優性・劣性問わずに発症して筋肉に影響することもあり、遺伝だけでなく色々な因子が関与するといえるでしょう。遺伝子のうち、片方の親が筋肉の発達に関わる遺伝子に変異があったとしても、必ずしもその作用が強く出るともいえません。例えば、先述した筋ジストロフィーについても遺伝の影響を受ける場合もあれば、本人の遺伝子が突然変異した事によって新たに生じるようなケースもあります。筋肉の優性遺伝や劣性遺伝について調べている方の中には、親がアスリートだけど自分の筋肉もその才能を受け継いでいる?とか、反対に親は全く運動していないけれど自分はトップアスリートになれる?といった疑問を抱えている方もいるでしょう。例えば、以前ご紹介したスーパーベビー。ともにトップアスリートだった両親から生まれた赤ちゃんが、突然変異によって筋肉の成長に歯止めがきかない状態となり、並外れた筋肉の持ち主となりました。これはトップアスリートだった両親の遺伝が何かしら関わっている可能性もゼロではありませんが、100%遺伝による影響を受けたとはまだ証明できない段階なのです。参考: 難病医学研究財団/難病情報センター:筋ジストロフィー(指定難病113)筋線維には優性遺伝はある?続いて筋繊維に関する優性遺伝についてです。例えば、お父さんが速筋繊維型の特性があり、お母さんが遅筋繊維型の特性を持っていた場合、子どもにどのような遺伝の影響があるのか気になるところですよね。こちらについてもまだまだ研究段階ではありますが、筋線維の組成は遺伝的な影響を受ける可能性が高いと考えられています。例えば、ラットを用いて筋線維組成の親から子への遺伝性を調べた実験があるのでご紹介しましょう。この実験の中では、腓腹筋外側頭深層部の速筋線維構成比が高いラットを用いた選択交配を行い、速筋線維の比率が高いラットが生まれるかどうかを調べました。実験の結果、実際に腓腹筋外側頭深層部の速筋線維構成比が高いラットが生まれたのです。 研究の中で、筋線維組成だけでなく、その他の筋にも遺伝の影響が見られました。参考: つくばリポジトリ:筋線維組成の遺伝性についての検討 A2191.pdfそれから、双生児を用いて遺伝の影響を調べた研究もあります。こちらの研究では一卵性双生児と二卵性双生児の外側広筋で遅筋繊維の遺伝を調べたところ、男性で99.5%、女性で92.9%、男女で見てみると96.7%の遺伝率であることがわかりました。この研究の中では筋繊維組成はほぼ遺伝によって決定されているとの結果になっています。その一方で一卵性双生児と兄弟姉妹の外側広筋の筋繊維組成を比較したところ、遺伝性ではなく後天的要因が30%ほど存在するのではないかとの結論に至りました。研究によって報告が異なるケースもあるため100%筋繊維が遺伝の影響も受けているのかに対してはまだはっきり言いきれない部分がありますが、親の筋繊維組成のばらつきが子どもの筋繊維組成のばらつきに対して影響をもたらすという報告もされています。いずれにしても遺伝が影響している可能性は高いといえるでしょう。参考: つくばリポジトリ:筋線維組成の遺伝性についての検討 1.pdf筋力発揮に優性の遺伝子が関与スポーツパフォーマンスに関する遺伝子多型が遺伝するかどうかを調べた研究があります。注目されたのは「αアクチニン3タンパク質」というもの。これは骨格筋のZ膜という部分に位置しているものであり、筋力を発揮する際に密接な関係を担っています。野生のマウスを調べたところ、αアクチニン3タンパク質を発現しているマウスは、そうでないマウスに比べて高い筋力も確認されているのです。研究の中ではαアクチニン3タンパク質発現量が遺伝子型でどのようなるのかについて調べました。その結果、RX型に比べるとRR型のほうがαアクチニン3タンパク質の発現量が多いとの結果になっています。ただ、だからといってRR型の方がRX型よりも優れた運動パフォーマンスを発揮したのかというとそうではなく、研究の中で行われた膝伸展動作による筋力発揮特性への影響はみられていません。それから、もう一つの遺伝子型であるXX型についてはαアクチニン3タンパク質自体が観測されなかったとのこと。しかし、αアクチニン2タンパク質というものに関してはXX型、RX型、RR型の順で高くなっており、αアクチニン2タンパク質がαアクチニン3タンパク質を補償しているのではないかと考えられています。こういったαアクチニンタンパク質の発現量の違いは遺伝子によって変わってくるため、筋力発揮に優性の遺伝子が関与しているといえるでしょう。参考:(PDF)デサントスポーツ科学Vol.35:aアクチニン3タンパク質発現量がヒト骨格筋パフォーマンスに及ぼす影響なお、こちらの研究ではαアクチニンタンパク質は有力な候補遺伝子の一つではあるものの、一般人のスポーツパフォーマンスなどに関してはそれほど大きな影響を与えない可能性があるとされています。遺伝によってタンパク質の発現量は変わりますが、競技者のパフォーマンス決定には後天的な環境的要因が大きな影響を与えると考えられているので、あまり遺伝の影響については考えずに日々のトレーニングを行っていきたいですね。まとめいかがだったでしょうか。筋肉に対する遺伝について解説しました。優性遺伝というものがあることを知り、気になっていた方は参考にしてみてください。親から遺伝するものはたくさんありますが、筋組織もその1つです。日々のトレーニングを行うにあたり特に気にする必要はありませんが、豆知識の1つとしておさえておいてはいかがでしょうか。BodykeLIVE 編集部 atorange+bodykelive.general@gmail.comEditorBodykeLIVE